アメリカクリスチャン同盟(The
Christian Coalition of America)議長ロバータ・コウムズは、2003年3月8日に次のような声明を発表した。
「我々は、イラクの独裁者サダム・フセインの体制の終結を目指すブッシュ大統領に心から賛同する。ここ数週間、我々は、多くのイラクの反体制の人々と会い、フセインが自国民に対して行っている残忍な支配と過酷な扱いについて詳細な情報を入手した。我々は、アメリカ国民に、ブッシュ大統領に賛同し、その対テロリスト戦争と、地上のあらゆる地域に民主主義と西洋的価値観を導入する試みに賛同するよう、強く呼びかける。」
「ブッシュ大統領は友人であり、非常に勇敢な指導者である。私は、彼のために毎日祈りをささげている。フセインは、数多くの無実の市民の死に対して責任がある。もし彼を野放しにすれば、さらに多くの無実の人々が死ぬことになる。我々は、大統領を支持し、サダム・フセインがすみやかに敗北し、死去することを祈るものである。」
(アメリカクリスチャン同盟とは、2百万人以上の支持者を持つ、アメリカ最大の大衆政治活動組織。http://www.cc.org)
この団体の中心人物は、かつて大統領選挙にうって出た大衆テレビ伝道者パット・ロバートソンである。彼は、再建主義に強く影響されていると言われているが、この声明を見る限り、ラッシュドゥーニーやゲイリー・ノースの考えをまったく理解していないのは明らかである。
(1)
どんなにすばらしい思想、信念、制度であろうと、暴力によっては実現できない。
「地上のあらゆる地域に民主主義と西洋的価値観を導入する試み」は、「爆撃」によってはもたらされない。
イエスは、福音伝道に暴力を使うことを容認されただろうか。
剣を抜いたペテロに対して、「剣を取る者は、剣によって滅びる。剣をさやに収めなさい。」と言われたのではないだろうか。
(2)
聖書は、世俗民主主義を肯定していない。
世俗民主主義は、「大多数の人々の意志」を聖書の代用品とする思想である。聖書を究極の権威とするのではなく、大多数の選挙民の意志を神の御言葉の上に据えるので悪魔的である。
クリスチャンは、このような制度を奨励してはならない。
クリスチャンが奨励すべきなのは、聖書を究極の権威、高等法、基本法として持つ、聖書的デモクラシーである。
我々が最終的に目指すのは、聖書に忠実に従うことを誓約する代表者を、聖書に忠実に従うことを誓約する選挙民が、「聖書に忠実に従うことができる人物であるかどうか」という基準で選出する体制である。神は、「反逆する前のアダム」に「地を支配せよ」と言われたことを忘れてはならない。神は、暴虐を行い洪水で滅ぼされた民にではなく、「義人ノア」に向かって「地を従えよ」と言われたことを忘れてはならない。
(3)
聖書は、西洋の世俗的ヒューマニズム価値観を肯定していない。
クリスチャンは、「西洋的価値観」をそのまま肯定し、それを他者に押し付けることはできない。
今日の西洋的価値観とは、ヒューマニズムである。
神を主とするものではないわけであるから、クリスチャンがそのような世俗思想を他の国民に押し付けることに賛同するなど絶対に許されない。
(4)
サダム・フセインが自国民に対して過酷な扱いをしているから侵略できるならば、なぜ、アメリカは、チベット問題をかかえ、クリスチャンを迫害している中国に同じことをしないのか。世界にはそのような国や地域がおびただしくあるのだから、アメリカクリスチャン同盟は、今後も、全世界のそのような国々の体制を変革するために、ブッシュに侵略するように勧め、彼の戦闘機やミサイルが乗り込んで爆撃することを肯定するのだろうか。
このようなことを言う牧師や聖職者は、スペイン・ポルトガルの南米侵略や、欧米列強によるアジア・アフリカ侵略を無条件で肯定した帝国主義者のお抱え聖職者と同レベルである。
我々は、その国の内部において政府によるジェノサイド(計画的集団虐殺)など、神の法に対する著しい違反が行われていない限り、他国の政権を打倒する試みは革命罪であり、聖書が禁じている「領域主権の侵害」、「他国への侵略」であると理解する。
クリスチャンは、なぜブッシュはイラクだけにこだわるのか見なければならない。
「自国民を圧迫しているから」というのが本当の理由かどうか見なければならない。
ある時は、テロに加担したから、といい、ある時は、大量破壊兵器を所持しているから、という。
これが、攻撃の口実に過ぎないということくらい理解しなければならない。
本当の意図は他のところにあるということを見抜かねばならない。
このくらいのことを分からないようなナイーブさでは、まともな人々の心を獲得できない。
このような声明はキリストの名を汚すものである。
もしこの声明がアメリカの一般的クリスチャンの心情から発せられたものであれば、アメリカのクリスチャンは傲慢である。世界の「啓蒙専制君主」面をするヒューマニストに同調している限り、アメリカのクリスチャンは世界の人々から尊敬されない。
そして、帝国主義者の提灯持ちに成り下がったアメリカクリスチャン同盟は、神の国の実現にまったく貢献しないどころか、むしろ、それを妨害するものである。
ティム・ラヘイといい、パット・ロバートソンといい、アメリカの福音的クリスチャンの指導者は、まったく堕落しており、信頼に値しないことがこれで明らかになった。
3/18/2003
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