エントロピーと進化
>でも結局エントロピーを理由に不可能だと言うのであれば熱力学第二法
>則に反すると言っているのと同じだよ。
同じじゃないね。
君のトンチンカンチガイの熱力学第二法則違反説(つまり、エネルギーの交換において外部環境から遮断された孤立系を前提としない熱力学第二法則違反説)など、一度も述べたことはない。
いいかね。孤立系において、エントロピーは一定かもしくは不可逆的に増大する。つまり、外部からの一切の負のエントロピーが注入されないかぎり、秩序は無秩序になっていきその逆はない。
(なんか負のエントロピーという言葉に拘っているようだが、エントロピーとは『無秩序の測度』だから、正と負があり、『負のエントロピーを注入する』というのも別に変わった言い方ではない。)
秩序の崩壊を防ぎ、さらに高度な秩序へ発展させるには、それに見合った十分な負のエントロピーが外部から与えられなければならない。
茫漠たる原始地球の海の中で、組織体が生まれ、それが自己増殖し、きわめて精緻な仕組みを持つ生物に進化したというならば、それなりの負のエントロピーが必要だということになる。
それでは、その負のエントロピーとは一体何だったのかという話しをず〜っとしていたのだな。
太陽光線などの外部からのエネルギー注入がはたして生物を生じさせるだけの負のエントロピーになるのだろうか。太陽光線やガス、海の中に存在する様々な物質、こういったものは、はたして無秩序を秩序にまで押し上げる要素になりえるのだろうか。
太陽光線、ガス、物質のランダムな組合せはそれ自体では、生物という高度な組織体を生み出すだけの負のエントロピーにはなりえないのではないだろうか。なぜならば、これらは、意思を持つものではなく、進化を実現しようという意図のもとに加えられるわけではないからだ。その働き方はもっぱらランダムである。
ためしに、太陽光線をずっと当てた紙は変色し、ぱさぱさになり、やがて崩壊する。太陽光線を当て続けているうちに、見事な折り鶴ができたということはない。それじゃあ、太陽光線にアルゴンガスと炭素を加えてみたらどうか。同じだ。折り鶴というのがあまりに人間的というなら、鉄はどうか。鉄は不安定な物質である。放置しておけば鉄はより安定した酸化鉄になる。産業用に鉄を利用するには様々な工夫が凝らされる。ニッケルとクロームを一定の割合で追加することによって、酸化しにくい鉄になる。しかし、もっぱら偶然にだけ頼ってランダムに負のエントロピーを加え続けても、そういった鉄が生まれることを期待することは非常に難しい。
確率が0とは言えない。何らかの拍子にニッケルとクロームがうまい比率で混じり合ってステンレスになる鉄だってあるかもしれない。だが、こんなことを期待することはほぼ不可能である。サルをコンピューターの前に坐らせてキーを叩かせても、コンピューターの画面に小説を書かせることは不可能である。確率が0でないにしても、ランダムな外力では、ランダムな結果しか期待できないのではないか。
となれば、きわめて精緻で、奇跡のかたまりとも言える生物が、偶然に無機物から生じ、それが進化して知能を持つ人間になりましたというのは、確率的に0ではないにしても、実質的に空想の物語である。
・・・とまあ、こんな議論をしていたのじゃよ。
わかるかね。進化がエントロピーの法則に反しているというわけではない。生物の環境は孤立系ではないからだ。
生物というきわめて複雑な組織体を生じさせるのに必要な負のエントロピーが、いっさいの人為的な操作なしに、偶然に成立する確率はきわめて小さなものでしかない、と言ったのじゃよ。