聖霊は人格ではない?(その3)
(Q) このことと調和しているのは、聖書に見られる「聖霊」という語の一般的な用法で、聖霊は水や火と対比されるように、非人格的存在として扱われています(マタイ3:11、マルコ1:8)。人はぶどう酒ではなく、聖霊で満たされることが勧められています(エフェソス5:18)。人は知恵や信仰や喜びなどの特質で満たされるのと同様に、聖霊で満たされると言われています(使徒6:3、11:24、13:52)。また、コリント第二6章6節では、聖霊がいくつかの特質と共に挙げられています。もし聖霊が実際に位格、もしくは人格的存在であったなら、そのような表現はそれほど普通に用いられることはなかったでしょう。
(A)引照された聖句についてですが、
マタイ3:11「その方は、あなたがたに聖霊と火とのバプテスマをお授けになります。」において、
「火」とは、その直後に「手に箕を持っておられ、ご自分の脱穀場をすみずみまできよめられます。麦を倉に納め、殻を消えない火で焼きつくされます。」(12)とありますので、「刑罰」の象徴として描かれています。
つまり、その方(キリスト)は、「麦」=良い者、と、「殻」=悪い者 を選り分けて、良い者には「聖霊のバプテスマ」、悪い者には「火のバプテスマ」を与える、という意味になります。
さて、「聖霊と火とのバプテスマ」のギリシャ語本文は、「βαπτσει εν πνευματι αγιω και πυρι」(will baptize in Spirit Holy and fire)です。
前置詞「εν」の次の来る名詞は、必ずしも「もの」や「場所」だけではありません。「人」「霊」などが来る場合もあります。
(1)もの、場所が来る場合、
「ある空間の範囲内で」「ある場所の表面上で」「あるものの近くで」などの意味になります。
ですから、この場合、「聖霊と火との内部でのバプテスマ」「聖霊と火との表面上でのバプテスマ」「聖霊と火との近くでのバプテスマ」などと訳すことができます。
(2)人、魂が来る場合、
「人格の内面において」「人(魂)の思いの内において」「人(魂)と共に」「人(魂)の間で」などの意味になります。
また、「εν」が「もの、場所」、「人、魂」を問わず、手段を表すこともありますので、「もの(場所)や人(魂)によって」「もの(場所)や人(魂)の助けを借りて」という意味にもなります。
ですから、「聖霊と火とによるバプテスマ」「聖霊と火との助けを借りたバプテスマ」などとも訳すことができるわけです。
したがって、聖霊と火が並べて書かれているからと言って、必ずしも聖霊が人格ではないと解釈することはできません。
「聖霊と火によるバプテスマ」と解釈して、「聖霊が行うバプテスマと、火を使ったバプテスマ」とも訳すことができます。
マルコ1:8にある「水のバプテスマ」と「聖霊のバプテスマ」も、同じように「εν」が使われていますので、同じように「水を使ったバプテスマ」と「聖霊が行うバプテスマ」と訳すことができます。
エフェソス5:18「酒に酔ってはならない。・・・御霊に満たされなさい。」
の「満たされなさい」は、ギリシャ語本文では、πληρουσθεです。この言葉の原型(直接法単数1人称)πληροωは、「満たす」という意味の他に、「所有する」「支配する」という意味もあります。
ですから、「御霊に支配されよ。」と訳すことが可能です。つまり、「酒に支配されてはならず、むしろ、御霊に支配されなさい。」と言われていると解釈できるのです。
酒が非人格だから、聖霊も非人格であると結論することはできません。
使徒6:3、11:24、13:52においても、「πληροω」が使用されていますので、同じように、「聖霊に支配される」ことが薦められていると考えることができます。
コリント第二6章6節「純潔と知識と、寛容と親切と、聖霊と偽りのない愛と、真理のことばと神の力とにより、・・・自分を神のしもべとして推薦しているのです。」においても、「により」に当たる言葉は、「εν」ですから、先ほどの理由により、必ずしも聖霊が非人格であることをこの箇所からも読みとることはできません。
また、パウロは、ここにおいて、自分を推薦する根拠を列挙しています。「自分には神のしもべであることを証明するこれこれの理由がある。」と述べているわけです。自己推薦する理由のすべてが非人格である必要はありません。
例えば、自分が有能な人間であることを、ある会社に自己推薦するとします。
その場合、履歴書に、「大学の成績」「英語の資格」「クラブ活動の実績」を書きます。その他に、自分にはこの会社に入ることを推薦してくれる「有力な政治家」がいる、と述べることができます。
このように、非人格の中に人格が混じって記されることは、聖書においても、普通の文書においても普通のことなのです。
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